暑い夏のさなか、アリたちは汗水たらしながら、せっせと働いておりました。
「やあ、アリさん。お暑い中、大変ですね」
「そうゆうキリギリスさんも、少しは働いたらどうですか」
「そうですねぇ。でも私にはやりたい事がありましてね」
「やりたいことって、あれでしょ?なんかギーギーうるさいヤツ」
「ええ、バイオリンっていうんですけど」
「バイオ?あれでなんかキレイになるんですか?」
「いやいや、洗剤じゃないんですから」
「じゃあ、なんの役に立つんです?」
「そういわれると、こまっちゃうんですがね」
「働きもせず遊んでばかりで、いい気なもんだ。あとで苦労しますよ」
アリの言葉に肩身の狭い想いを感じながら、
キリギリスは夏の間、ずっとバイオリンの練習をしておりました。
やがて冬になり、寒くて凍えそうな日が続きます。
アリたちは家にこもり、たくわえた食料を食べて暮らしていました。
そこへ、だれかが訪ねてきました。
トン トン トン トン
「すいません」
「だれだい、こんな雪の中にくるのは」
「どうも、アリさん。キリギリスです」
「おや、キリギリスさん。どうかしたんですか」
「ええ。ちょっと聞いてもらいたいことがございまして」
「まあ、ちょうどたいくつしてた所なんだ。どうぞお入り」
「ありがとうございます」
「それで、なにか面白い話でもあるのかい?」
「面白いかどうかわかりませんが、じつは一曲演奏させてもらいたいと思いまして」
「え!?あのギーギーを?ここでやろうっていうんですか?なんの冗談?」
「いえいえ、冗談じゃないんです。
ずっと練習を重ねてきましたんで、少しはマシになってると思うんですよ」
「それじゃあ、たいくつしのぎに聞かせてもらおうじゃないか」
「ありがとうございます」
さっそくキリギリスさん、バイオリンを肩にのせると、
からだをゆらしながら、ヴィバルディの『四季』を奏でました。
「いやー、たいしたもんだ。いいこころもちになったよ」
「ありがとうございます。代わりといってはなんですが、食事をごちそうになってもよろしいですか」
「どうぞ、どうぞ。食べてって」
「ありがとうございます。しばらくなにも食べてなかったもので」
「そうだ!今度ともだちの結婚式があるんだが、また演奏してもらおうかな」
「よろこんで、演奏させていただきます」
さあ、この話がアリからアリへと連なって、目の回るような忙しさ。
「キリギリスさん、近頃方々飛び回っているそうじゃないか」
「ええ、おかげさまで。もう、キリギリ(きりきり)舞いです」
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